介護・福祉
2023.06.29
医療・介護業界が押さえるべき「認知症基本法案」のポイントとは
「我が国の認知症高齢者の数は、2012年に462万人と推計されており、2025年には約700万人、65歳以上の高齢者の約5人に1人に達すると見込まれており、今や認知症は誰もが関わる可能性のある身近な病気」(認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン);厚生労働省)とある通り、認知症は社会全体を通して向き合うべき存在となっています。
そうした中、「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らす」ことを掲げた認知症基本法案が、2023年6月14日の参議院本会議において可決・成立しました。
本コラムでは、認知症基本法案の中から気になるポイントをピックアップし、様々な角度から解説します。
目次
認知症とは。まず、認知症の定義を押さえる
認知症基本法案の第一章第二条において、「『認知症』とはアルツハイマー病その他の神経編成疾患、脳血管疾患、そのほかの疾患(中略)により、日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態」とされています。なお、2019年6月20日に厚生労働省老健局が発表した「認知症政策の総合的な推進について」では、認知症の主な原因疾患として「アルツハイマー病:67.6%」「脳血管性認知症:19.5%」「レビー小体型認知症:4.3%」「前頭側頭葉変性症:1%」「その他(アルコール性、混合型:7.6%」となっています。アルツハイマー型認知症はほとんどの場合、60歳以降に症状が現れ、介護が困難になりやすく、介護者の家族や友人は強い精神的ストレスや欝にかかることも多く見受けられます。また、脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などいわゆる脳卒中の結果として認知症となり、脳血管障害が起こるたびに認知機能が段階的に低下していきます。レビー小体型認知症は、脳の広範囲にある神経細胞にレビー小体(たんぱく質が固まった構造物)が蓄積されて発症し、認知機能・幻視・パーキンソン症状・レム睡眠行動異常などの症状があります。
認知症の日及び認知症月間の新設と行事の奨励
また、衆議院に提出されている認知症基本法案の第一章第九条において、「国民の間に広く認知症についての関心と理解を深めるため、認知症の日及び認知症月間を設ける」、さらに本条第2項において、「認知症の日は九月二十一日とし、認知症月間は同月一日から同月三十日」と記載されています。今後認知症の日である9月21日では、認知症カフェや認知症サポーター制度(オレンジリング)、RUN伴(ランとも)などに代表されるような「認知症高齢者にやさしい地域づくり」に向けた事業や行事の実施が奨励されることになります。
認知症に対して、地域包括ケアシステムの構築をもって取り組む
さらに、同じく衆議院提出の認知症基本法案第一章第十八条においては、第2項に「国及び地方公共団体は、認知症の人に対し適時に、かつ、適切な保健医療サービス及び福祉サービスを総合的に提供するため、(中略)地域包括ケアシステムを構築することを通じ、保健及び医療並びに福祉の相互の有機的な連携の確保そのほかの必要な施策を講ずるものとする」とあります。つまり、地域包括ケアシステムの構築によって、認知症の人に保健医療と福祉の各サービスを提供していくことを目指しています。今日において、高齢者の生活マネジメントをどのように設定し進めていくかということが今後求められることでもあり、課題でもありますが、それらを実現・解決できるのが地域包括ケアシステムであるとされています。結果として、今後ますます地域包括ケアシステムの構築と整備が重要視され、医療・介護業界においては、地域包括ケアシステムの構築に向けた主体的な参加や取り組みが求められることとなるでしょう。
海外では認知症とどう向き合っているか
さて、海外の認知症ケアについて簡単にご紹介します。1963年にアメリカのソーシャルワーカーによって提案された「バリデーション」は認知症の方の言動が意味のあることと捉え、認め、受け入れることを言います。マイナスの感情にもふたをせず、むしろ表出を促して共感していくことを目指しています。1980年代末の英国で提唱された「パーソン・センタード・ケア」は人としての尊厳が傷つけられることが状態の悪化に大きく影響してくることから、認知症を持つ人も一人の人として尊重、その人の立場に立って考え、ケアを行っていこうという認知症ケアの考え方です。
一方日本においては、団塊の世代が75歳以上となる2025年を見据えた「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者にやさしい地域つくりに向けて~」(新オレンジプラン)を、2015年1月27日に厚生労働省が関係11府省庁と共同で策定しています。このように、認知症の方の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域の良い環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指しています。
認知症を1つの個性として捉える地域共生社会の実現に向けて
2015年3月の「日本における認知症の高齢者人口の将来設計に関する研究 総括研究報告書」(国立保健医療科学院)によると、2025年の高度ADL障害を有する認知症患者数は、各年齢層の認知症有病率が一定であると仮定した場合は129万人、上昇すると仮定した場合は140万人、と予測されています。続けて同報告書では、要介護4-5の認知症患者数は99万人と推計、これらの高度ADL障害をきたし重度の介護を要する認知症患者の数は今後も増加することを予測しています。そして、より健全な超高齢社会を迎えるために、認知症対策と効率的な介護行政の確立が急務である、と述べられています。2023年現在、認知症患者は増加の一途をたどっており、まさに報告書の予測通りの状況となっています。
今日においても、「認知症=何も分からなくなってしまう」「発症したらどうしたらよいのか」という認識や考えをもつ人は多くいらっしゃいます。そうした状況下における今回の法案は、「認知症も1つの個性」という捉え方をもつことで、誰もが過ごしやすい社会の形成に向けたきっかけになることを期待されています。つまり、認知症患者だけでなく、その家族や友人、関係者、そして地域全体が希望をもって共生する社会の構築にむけて取り組むことが、今後の地域共生社会の実現において重要です。医療・介護業界においては、地域共生社会の実現、地域包括ケアシステムの構築への参加が求められています。
弊社では、地域包括ケアシステムの中心を担える存在になるための事業戦略構築をご支援しています。
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介護老人保健施設、グループホーム、有料老人ホームと現場での実績を積み、有料老人ホームのホーム長としてホーム運営全般の業務に従事。現場と運営の両方の立場を経験していることを強みとし、様々な角度から物事を客観的にとらえ、実践していくサイクルを経験し、現在は業務支援を担当。