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2024.12.04

有料老人ホーム運営に関するアクションプラン作成のポイント

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有料老人ホーム運営に関するアクションプラン作成のポイント

前回11月20日のコラムが“事業計画書”についてでした。
その中で、立てた計画を実現していくためにアクションプランを活用する、ということを書いています。
ではアクションプラン(行動計画)についてどんなポイントをおさえていけばいいのか、
今回は有料老人ホーム運営を例に具体的にコメントしたいと思います。

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はじめに

そもそも有料老人ホーム事業は、ただの不動産投資とは全く別物です。

先日、ある金融機関本部の医療介護福祉の専門チームの方とお話しした際、「ハコモノ」と呼ばれる介護事業に関しては、(保険事業の経験のない)異業種からの参入も多いことが立ち上げや運営に苦戦する要因の一つでもあると聞きました。よくよく聞いてみると、アパート投資のノリで運営まで始めてしまう方もいるようです。
高齢者向けのアパート経営なら困っている人も多いからすぐに満室になるだろう、といった感じです。
それに加えて、必要な分だけ訪問介護を提供すれば、ただのアパート経営にプラスアルファで収益ポイントがあってより一層儲かるだろう(訪問の事業なので大きな固定費は掛からないから)、と。
だから入居者集めだけ頑張れば、要は住宅の稼働率だけ気にすれば、事業はうまくいくはずだと。
しかし、介護事業者さんに関わる皆さんであれば、介護事業を運営するということはそんなに楽なことではない、と想像がつくと思います。
そうなんです。ただの不動産投資ではなく、あくまで“事業”であり、利益を出すためには工夫を凝らした施策と、それを実行するための行動力が必要となり、しっかりとPDCAを回していく仕組みが必要になってきます

アクションプラン作成の5つのポイント

介護の事業活動におけるアクションプランの作成には、以下のポイントがあります。

目標の設定

まず、明確な目標を設定することが重要です。
大きくは、成果目標と行動目標に分けて、成果目標(売上、営業利益など)を達成するための仮説に基づいたKPI(重要業績評価指標)と適切な施策とその行動目標を設定することです。
重要なのは、正確に評価できるよう、数字で表現できる“定量的”な目標を置くことです。

現状の分析

事業の現状を客観的に分析しましょう。
市場の動向や競合他社の存在、利用者のニーズなどを調査し、SWOT分析を行うことで、自社の強みと改善すべき点を把握します。
実際の取り組みとしては、強みを伸ばす、弱みを改善する、どちらかまたは両方でもいいと思います。
いずれにしても、自社の現状が目標やベンチマークとするところとどれだけ乖離があるのか、正確に把握することが重要です。

戦略の策定

目標を達成するための戦略を立てます。
例えば、マーケティング戦略やサービス品質向上の戦略など、具体的で実現可能な手段を考えましょう。
設定する目標にもよりますが、個人的には、売上の原理原則から「利用者(入居者)数」を伸ばす(待機者を作る)施策と、「介護報酬単価(家賃や食費はほぼ固定ですので)」を目標値に伸ばすか維持する施策に絞られると考えています。
どちらも事業がしっかりと利益を出し続ける上で重要な施策となりますが、取り組みをシンプルにすることが長続きさせる秘訣だと考えています。

アクションプランの具体化

戦略を実現するために必要な行動を計画化します。
具体的なタスクや担当者、期日を設定し、実行可能なスケジュールを作成します。
ここがまさに、“アクション”の“プラン”の部分です。1番大事ですが1番簡単な部分です。「だれが」「いつまでに」「何をするのか」を決めるだけです。逆に、これが無いと、多くの良い施策も実行されずに終わってしまいます。

モニタリングと評価

アクションプランを実行する過程で、進捗をモニタリングしましょう。
定期的な評価を行い、目標達成度や課題を確認し、必要な調整を行います。PDCAの「C」の部分です。
「アクションプランの具体化」ができていれば、実行できたか否か(できていないなら、改めていつ誰が行うのか、再設定して必ずやり遂げることが大切)を誰でも評価することができます。その評価に基づき、次の施策や行動目標を設定していきます。
また、やり切らないことには、その施策そのものが良かったかどうかも判断できません。厳しいかもしれませんが、自分で立てた計画なんですからやり切りましょう。


その他にも、リスク管理や予算の設定など、事業活動において重要な要素も考慮することが大切です。

どんなKPIが考えられそうか?~5つの考え方の例~

住宅型有料老人ホームを経営する場合のアクションプランには、以下のようなKPI(重要業績評価指標)や施策が含まれることがあります。

1. 高い入居率の維持

入居率や入居申込数、キャンセル率などがKPIとなります。
施策としては、広告・宣伝活動の充実や他の施設との差別化、見学会の開催、入居契約プロセスの改善などが考えられます。
前提として、無茶な入居率の設定はせず、かつ、標準的な条件のもとの損益分岐点稼働率を把握することがそもそも重要です。

2. 経営効率の向上

コスト削減や効率化施策により経営効率を向上させます。
KPIとしては、利益率や経費削減率、生産性に関わる指標などが挙げられます。
施策としては、業務プロセスの見直し、ITシステムの導入、エネルギー効率の改善のほか、やはり多いものだと単価アップや労働生産性などが考えられます。特に住宅型有料老人ホームにおいては、提供する介護サービスは訪問介護を利用するケースがほとんどです。移動時間が削減できる分、ヘルパーごとに効率よくサービススケジュールを組むことで、より生産性の高い運営を実現できます。

3. 居住者満足度の向上

生活環境やサービスの質に関するアンケート調査やフィードバックを活用して、居住者の満足度を評価します。最近だとGoogleのレビューなどを利用する事業者も増えてきているようです。
KPIとしては、満足度のスコアやレビュー数などが挙げられます。
施策としては、定期ミーティングやフィードバックを重視した改善活動を実施することなどがあります。
また、介護サービスを提供する場として、紹介元となるケアマネジャーや病院の連携室、ご家族からの評価も重要な指標になることがあります。

4. 健康管理の充実

入居者の健康状態を定期的に評価し、必要なケアや予防策を行います。
KPIとしては、健康状態の評価やケアプランの作成、転倒や緊急事態の発生件数などが挙げられます。
施策としては、医療スタッフの連携強化、適切な自立支援における方針設定や実績、食事の管理などが考えられます。
あくまで現場の立場ではあるものの、安心安全な生活環境で健康的に生活できることが、管理された住宅の役目でもあります。これを対外的に示すことは経営に直結させることができるとも考えられます。

5. スタッフ満足度の向上

スタッフの働きやすさやキャリア開発の機会に関するアンケート調査などを通じて、スタッフの満足度を評価します。
KPIとしては、離職率やスタッフの評価スコアなどがあります。
施策としては、教育・研修プログラムの提供、コミュニケーションの改善、福利厚生の充実などが考えられます。
介護は、人財ありきの業態でもあります。自分の大切な家族を任せられるスタッフたちなのか、本人・ご家族、連携先は見ています。人材難と言われる業界で、安定的にスタッフが在籍しているかどうかも当然経営に直結します。


これらのKPIとそれに伴う施策は、住宅型有料老人ホームの経営の成功に寄与するでしょう。
ただし、具体的なアクションプランは、現地の市場調査やニーズに基づいてカスタマイズすることが重要です。

最後に

もしかするとご覧の方々の中には、何の目標も定めず、ただ何となく情熱だけでやってきてうまくいってしまっている方もいるかもしれません。
ただ、取り組んでいるのは収益事業です。
今後もさらに発展させ、時には多角化させ、大きく展開していくことをビジョンに置いている方も多いかと思います。
その夢の実現に向けて、組織で取り組む以上、リスクも加味して考えると、現場の運営はよりロジカルに&再現性の高いものにしていく必要があると思っています。
やったことのない取り組みとなると少し大変かもしれませんが、できることから少しずつ、1つの重点施策を徹底的に、ということから始めて業績が上がるならそれでもいいのではないかと思っています。

ここまでご覧になり、
「そうか!そう考えればよかったのか!」
「そういう見方もあったのか!」
と気づきを得てくれた方もいるとは思いますが、一方で、
「わかったようでわかっていない気がする」
「むしろ難しく感じてしまいより縁遠く思ってしまった」
などネガティブな感情をもってしまった方もいるかもしれません。

でも安心してください。

私たちは何かを無理に押し付けたり、お客さまの意向を無視するようなことはしません。
もし事業経営でお困りだったり、新規事業の着手に迷う原因がその後の運営だという方は、ぜひお気軽にご相談ください。
計画の立案や実行支援に関して、CBリサーチがサポートさせていただきます。

東海林 拓

このコラムを書いたコンサルタント

東海林 拓

東日本で展開する企業で、事業部運営を行い、複数の新規事業の導入・立ち上げに従事。その後、CBグループへ参画し、東日本で病院・薬局の経営支援を行う。クライアントの収益改善に向け、これまでM&Aサービスはじめ、様々なサービスのご提案・ご提供により新規開拓を実現。

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